近時の朝日新聞において、建替えのうち一定の場合において、特別決議の要件を5分の4から3分の2に緩和する法改正が行われる見込みとの報道がなされました。これは、都市再開発法において求められる組合設立認可申請の要件である「施行地区内の地権者の3分の2以上の同意」に模したものであり、都市再開発法に近づけたものと評価できます。
マンション建替え円滑化法を都市再開発法の手順に近づけていく過程の中で、以下の「賃借人の同意権」の問題もぜひ取り上げていただき、議論していただければと思います。
マンション・区分所有建物(以下単に「マンション」といいます)を建て替える場合において、賃借人対応がキーポイントとなることがあります。すなわち、建替え決議の効力は、区分所有者である賃貸人と賃借人との賃貸借契約関係には直接影響を及ぼさないため、賃借人に退去してもらうためには、借地借家法に基づき、賃貸借契約の更新拒絶や解約申し入れを行い、正当事由の要件を満たす必要があります。ところが、正当事由は、建て替え決議がなされたという事実だけで充足するものではないため、当事者間で正当事由の有無(立退料の額も含めて)が争いとなります。
マンション建替え円滑化法によれば、賃借人に再建建物の借家権を与えることで、賃借人が存在したまま建替えを実現できることになっています。しかし、権利変換計画につき、賃借人の同意が必要であるため(円滑化法57条2項)、賃借人が同意しない限り、権利変換計画が認可されません(この点は、以前のブログで説明したとおりです)。そのため、予め、賃貸人が賃借人に対し建物からの退去を求めることが一般的です。
しかし、賃貸人と賃借人との明渡交渉がこじれた場合、建替組合が事業をそのまま推進しようとしても、賃借人は権利変換計画に同意しないという対抗手段を取ることができます。そのため、賃貸人としては、建替計画の遅れを回避するため、賃借人の希望通りの立退料を支払うか、明け渡し訴訟により解決するほかありません。結局、賃借人が立退料の高額化のための交渉カードを有していることになります。
一方、都市再開発法では、同様に、建物賃借人が再開発ビルに借家権を取得できる等の保護がされているものの、建物賃借人には、再開発に関する同意権は与えられていません。そのため、建物賃借人の同意がなくても、地権者は再開発を進めることができます。
今や、耐震性不足のマンションを含め、マンション老朽化は、大きな社会問題となっています。賃借人に十分な補償が与えられることを条件に、マンション建替え円滑化法においても、賃借人に権利変換計画への同意権をなくすことも検討すべきかと思われます。ぜひ、今後議論をしていただきたいと思います。