マンション建替え決議がなされた後、実際にマンションを解体するには、全占有者に建物を明け渡してもらわなければなりません。ところが、マンションに賃借人(居住者・テナント)がいる場合、どのような方法で明渡しを求めることができるかが問題となります。
賃貸借契約は、賃貸人(区分所有者)と賃借人(居住者・テナント)との間で締結されていますが、管理組合における建替え決議は、賃貸借契約には直接影響を及ぼしません。従って、建替え決議がなされたからと言って、賃貸借契約が直ちに終了することはありません。
そのため、建替えを進めるためには、法律に則って賃貸借契約を解除しなければならないのですが、その方法としては、①期間満了による更新拒絶、②解約申入権の行使、③合意解除が考えられます。
①については、建替えのタイミングと更新拒絶のタイミングが合わないことも考えられます。従って、建替えが近い場合には、合意更新をせず、法定更新にしておき、期限の定めのない賃貸借にしておくことが必要です。なお、居住用の定期建物賃貸借契約への切り替えには一定の制限があります(平成11年12月15日附則第3条)。
②については、正当事由の存在が必要となります。建替え決議がなされたことだけで正当事由が具備されるわけではなく、建物が老朽化している、耐震性が欠如している、立退料の提示等の事情も併せて考慮されることになります。なお、解約申入れから解約の効力が発生するまで6か月の期間を要しますが(借地借家法27条1項)、6か月経過してから建物明渡請求訴訟を提起したのでは、明渡し(工事着工)が益々遅れます。そのため、6か月の経過を待たずして、将来給付の訴えを提起することがあります(民事訴訟法135条)。
③については、明渡しを求める際の一般的な方法と思われ、明渡時期、立退料、原状回復の要否等、話し合いにより柔軟な解決を図れます。法的に明渡を求めることができない場合には、合意解約による他ありません。
なお、マンションの建替えの円滑化等に関する法律によれば、施行マンションについて借家権を有していた者は、権利変換計画に従い、再建マンションについて借家権を取得しますので(71条3項)、借家人がいたままでも、建替えができないわけではありません。しかし、この場合、権利変換計画についての借家人の同意(57条2項)が必要となるため、それを回避べく、予め合意解除等により賃貸借契約を消滅させ、借家人がいない状態にする事例が多いように思われます。
マンションの建替えには、多数の利害関係人がいるため、合意形成や合意遂行に時間を要します。本記事がご参考になれば幸いです。