定期借家においては、期間満了の1年前から6か月前までの間に、期間満了により賃貸借契約が終了する旨を通知(契約終了通知)しなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができません(借地借家法38条4項)。
もし、この通知を失念してしまい、この通知期間や賃貸借終了日を過ぎてから、通知を出した場合、その6か月経過後に、賃借人に賃貸借契約終了を対抗できるのでしょうか。
東京地裁平成21年3月19日判決(判例時報2075号179頁)は、①定期建物賃貸借契約は、期間満了によって確定的に終了し、賃借人は本来の占有権限を失うとしたうえで、②賃借人に対し終了通知がされてから6か月後までは、明渡しが猶予されるが、このことは、契約終了通知が期間満了前になされたか、期間満了後になされたかで異なるものではない、としました。
従って、契約終了通知を失念し、期間満了してしまった場合であっても、その満了後に通知をすれば、6か月後には、賃借人に退去してもらえることになります。
ただ、そうすると問題となるのは、賃貸人が、定期借家契約の終了時期を自由にコントロールすることができるようになってしまうことです。つまり、老朽建物の将来の建て替えのために定期借家にしていたところ、景気が低迷したので、しばらく様子見をし、定期借家をそのまま放置し、それから数年たって賃貸人に都合のよい時期に、賃貸人が賃借人に契約終了通知を出せば、その6か月後には無条件で、賃借人に退去してもらえるという結論になってしまいます。
判決は、この問題については、「期間満了後、賃貸人から何らの通知ないし異議もないまま、賃借人が建物を長期にわたって使用継続しているような場合には、黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたものと解し、あるいは法の潜脱の趣旨が明らかな場合には、一般条項を適用するなどの方法で、統一的に対応するのが相当」とし、賃貸人による悪用を防止しようとしています。
黙示的に普通建物賃貸借が成立してしまえば、正当事由がなければ、賃借人に退去してもらうことはできません。
また、一般条項により賃貸借終了を対抗できないとされた場合、定期借家契約が終了している以上、賃借人の不法占拠の状態が続くことになりますが、その後の賃貸人・賃借人の関係をどのように法的に整理するのかは、今後の課題といえましょう。
黙示の契約の成否や一般条項の適否は、個別事情により異なるため、一概には言えませんが、実務上の参考にしていただければ幸いです。