他の土地に囲まれて公道に通じない土地(袋地)の所有者は、公道に至るまで、その土地を囲んでいる他の土地(囲繞地)を通行することができます。これがいわゆる囲繞地通行権と呼ばれている権利です(民法210条1項)。
袋地は、公道に通じていないがために、近隣相場に比較して価値が大幅に低くなってしまいます。建築基準法上の接道義務を満たさないため、そのままでは建物の建築もできないという問題もあります。
そこで、袋地の所有者が、建築基準法上の接道義務を満たすために、囲繞地通行権を主張し、これを建築確認の際に「道路」であると主張できるのかが問題となります。
もしこれが認められることになれば、袋地の所有者にも、建物建築の途が開かれることになり、袋地の価値が増大します。
一方、囲繞地の所有者からしてみれば、囲繞地通行権によって道路とされてしまうと、囲繞地上の建物の建蔽率等にも影響し、既存不適格になる等、著しい不利益を被るおそれもあります。
最高裁平成11年7月13日判決は、公道に1.45m接する土地の上に建築基準法が施行される前から存在した建築物が取り壊された場合に、その土地の所有者のために、接道要件を満たすべき内容の囲繞地通行権は認められないと判示しました。
仮に囲繞地が更地である場合を考えると、接道要件を満たすべき内容の囲繞地通行権が認められてしまうと、袋地所有者のために建物敷地を失うことになり、囲繞地所有者が自らの土地に建築できる建物についてかなりの制約(建蔽率や容積率の縮小)を受けることになります。それは、受忍限度を超える制約ではないかと思われ、判決の結論には賛成したいと思います。