農業の主たる従事者とは

 前回お話したとおり、農業の主たる従事者が死亡し、又は、農業に従事することが不可能になったときには、生産緑地の買取請求が認められていますが、農業の「主たる従事者」とは一体誰を指すのでしょうか。

 「主たる従事者」とは、農業に専業従事する者はもちろんのこと、兼業で従事する者であっても、その者が従事することができなくなったために農業経営が客観的に不可能となるような場合におけるその者も含まれ、世帯主に限定されるものではありません。
 また、農業は家族経営で行われることも多いことから、主たる農業従事者と共に、一定割合以上農業に従事している者、具体的には、
� 主たる従事者が65歳未満の場合、その従事日数の8割以上従事する者
� 主たる従事者が65歳以上の場合、その従事日数の7割以上従事する者
も、「主たる従事者」に含まれるものとされます。

 「主たる従事者」に該当するか否か、「一定割合以上農業に従事している者」に該当するか否かは、市長が判断します。そして、買取申出の際には、個々の従事者の従事日数を把握するため、農業委員会の証明書を添付することになっており、市長の判断が客観的なものとなるよう配慮されています。

 買取申出の事例ではありませんが、相続税の更正処分に対する取消請求訴訟において「主たる従事者」の解釈が問題となった事例があります(名古屋地裁平成13年7月16日判決、判タ1091−224)。
 上記判例においては、「主たる従事者」の判断基準につき、その者の死亡により、所有者となった相続人が質的又は量的に従前と異なる新たな負担を余儀なくされるような場合には、当該被相続人は「主たる従事者」に該当すべきであると判断した上、この新たな負担とは単に労働力の提供という要素のみに限定されるべきではなく、資本その他の経営面における要素を総合考慮すべきであると判示しました。
 事例は異なるものの、数少ない裁判所の判断だけに、参考になるものと思われます。

生産緑地の買取申出制度

 今日は、生産緑地の買取申出制度について、大きな手続の流れについてお話したいと思います。

 生産緑地に指定はされたものの、その後の事情の変化により、生産緑地の指定を解除して欲しい場合が生じます。
 たとえば、相続が発生した場合において、農業を承継する方がいなくなってしまった場合や、相続税納付のために当該農地を処分したい場合などが考えられます。しかし、生産緑地のままでは、所有権の移転は可能であるものの開発行為が規制されているため、現実には処分は極めて困難といえます。
 
 そこで、次のような場合、土地の所有者は、市町村長に対し、生産緑地を時価で買取るよう申し出ることができます。

� 生産緑地地区に指定されてから30年を経過したとき
� 農業の主たる従事者が死亡し、又は、農業に従事することが不可能になったとき

 生産緑地は、税制面において多大な恩恵が受けられる一方、緑地保全という機能に鑑み、その指定解除については、このように厳しい要件が付されています。

 買取申出を受けた市町村長は、当該生産緑地の買取を希望する地方公共団体等のうちから買取の相手方を定めることができ、そうでなければ、特別の事情がない限り、当該生産緑地を時価で買い取ることとなります。

 市町村長は、買取の相手方を定めた場合を除き、買取申出があった日から1か月以内に、買い取る旨又は買い取らない旨を土地の所有者に通知しなければなりません。
 買取の相手方が定められた場合には、当該買取の相手方は、買取申出があった日から1か月以内に、買い取る旨の通知を土地の所有者及び市町村長に通知しなければなりません。

 市町村長が当該生産緑地を買い取らない場合には、当該生産緑地において農業をすることを希望する者がこれを取得できるようあっせんすることに努めなければなりません。

 市町村長のあっせんにもかかわらず、買取申出から3か月以内にあっせんがまとまらなかった場合には、生産緑地法による各種行為制限が解除されます。

 買取申出の手続の概略につきましては、以上のとおりです。
 土地の所有者が生産緑地の買取を申し出た場合、3か月以内には決着がつくことになっており、生産緑地指定により私権の制限を受ける土地の所有者の権利保護に配慮した制度となっています。

 それでは、次回以降、買い取り申出をするための要件(主たる従事者とは?農業に従事することが不可能な場合とは?)、買取時価の算定方法等の問題点につき、お話したいと思います。

生産緑地とは

 さて、今回からいよいよ本題に入りますが、まずは、「生産緑地」をテーマに書いていきたいと思います。

 私が住んでいる多摩地区は、大きな農地がまだ多く残っており、その農地は、文字通り農業が行われているものもあれば、たくさんの木が整然と植えられているものもあります。こうした自然の残る街並みを散歩していると、気分が和みますが、その農地の片隅に「生産緑地」の標識が立っていることがよくあります。

 生産緑地とは、市街化区域内にある農地等のうち、生産緑地法第3条第1項の規定により定められた生産緑地地区の区域内の土地又は森林をいい、都市化により失われつつある農地を計画的に保全し、市街化区域において良好な生活環境を確保するために制定されました。

 三大都市圏の特定市における市街化区域内の農地については、平成4年から税制上の取り扱いが変わり、原則として固定資産税等の長期営農継続農地制度の廃止や相続税の納税猶予・免除制度の除外が行われることとなりました。
 しかし、他方、市街化区域内であっても生産緑地地区内の農地のみ固定資産税の農地並み課税や相続税の納税猶予・免除制度等の優遇措置が講じられることとなりました。
 
 このように、生産緑地指定を受けると、税制面においてかなりのメリットがありますが、一方で、同指定を受けることにより、土地利用の面においてはかなりの制約を受けることになります。
 具体的な例を一つ挙げると、生産緑地においては、住宅、事務所等の建築や、そのための宅地造成はできず、市区町村長の許可の下で一定の農業関連施設の建築等を行うことができるにすぎません。

 平成4年当時は、未だバブル経済の名残で固定資産税等が高かったこともあり、こうした税負担を逃れるために、平成3年の生産緑地法改正と平成4年の税制改正を契機に、生産緑地指定を受けた都市農家の方々も多かったようです。
 しかし、上記の通り、生産緑地指定を受けると、マンション開発等はできなくなり、しかも、生産緑地指定を解除するためには厳しい制約があります。
 そこで、いかなる場合に生産緑地指定を解除できるのかが問題となりますが、この生産緑地の買取・指定解除の問題については、次回、取り上げたいと思います。